入管法改正により2019年4月よりスタートする新しい在留資格:特定技能(以下、特定技能ビザ)。人手不足とされる14分野に限って認められる就労ビザの1つです。

ここでは、漁業分野の特定技能ビザについてご説明致します。

特定技能ビザを取得するための条件は、日本語能力と即戦力となる専門性・技能を持っていることですが、技能実習制度の後継という性質も持ち合わせているため、他の就労ビザにはない基準も多々あります。

漁業分野の特定技能ビザの基準は、外国人本人と雇用主双方に設けられています。

  • 外国人本人の条件(一定レベルの技能と日本語能力)
  • 雇用主(特定技能所属機関)の条件

※当記事はH30/12/25閣議決定案・H30/12/25運用要領を参考に執筆しています。

漁業分野が特定技能ビザの対象となった趣旨・目的

漁業における労働者数の減少は著しく、1998年に27万7千人いた就業者は2017年には15万3千人と半減しています。また、雇われ就労者の2割が65歳以上ということもあり、向こう5年間で2万人が不足すると想定されています。

この不足する労働力を外国人人材で補いたいということで、漁業産業が特定技能ビザの対象となっています。

また、政府の算出では不足する2万人に対して労働効率化や国内人材確保を講じることで1万1千人を確保し、不足分の9千人を特定技能ビザで補おうとしています

漁業分野の特定技能ビザが認められる仕事内容

認められる漁業分野の仕事内容は、漁業と養殖業です。

性格には日本標準産業分類に該当する事業者又は当該分類に関連する業務を行う事業者が行う業務とするとされており、下記の通りとなります。

  • 03 漁業(水産養殖業を除く)
  • 04 水産養殖業

特定技能1号、2号について

特定技能には1号、2号の2種類があり、1号は期間工、2号は長期在留が可能で様々な優遇措置が設けられています。

漁業分野における特定技能ビザは1号のみ認められていますので、雇用期間は最長で5年となります。ただし、技能実習生とは異なり他の在留資格への変更は認められていますので、5年を超えての雇用も可能です。

  特定技能1号ビザ 特定技能2号ビザ
在留期間 最長5年 制限無し
家族帯同 不可 可能
開始スタート 2019年4月 漁業は対象外
他の在留資格への
変更
可能 可能

特定技能ビザの取得条件は、様々な条件を満たす必要があります。外国人本人は人材に関する事項をクリアしなければなりません。

また、外国人本人に課せられる条件以外に、雇用主(特定技能所属機関)に課される事項も設けられています。本人の素養以外にも雇用側もクリアしなければならない条件があるということです。

特定技能ビザを取れないケース

入管法の適切な運用のために、以下に該当する方は特定技能ビザを取得が困難です。

①退学・除籍処分となった留学生
②失踪した技能実習生
③短期滞在ビザで来日中の外国人
④帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人
⑤もともと他の在留資格(ビザ)に変更が予定されている外国人

ただし、「相当の理由があるとは認められない」と判断された場合の話ですので、絶対ではありません。例えば失踪した技能実習生であれば、失踪せざるを得ない理由(暴力や賃金未払い)などであれば可能性はあると考えています。

また、④の「帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人」には、活動計画を立てて来日した研修ビザや技能実習生も含まれますが、あくまでも計画を投げだして特定技能ビザに変更ができないだけであり、計画が終了したタイミングでの特定技能ビザへの変更は可能です。

特定技能1号ビザの条件(人材の基準に関する事項)

特定技能ビザを取得する外国人労働者には一定以上の「技能」と「日本語能力」が求められます。その能力を測るために、評価試験の合格や資格取得が条件とされています。

また、一定の技能実習生については上記が免除されます。

そして、漁業分野は「漁業」と「養殖業」の2業務に分かれています。

漁業分野特定技能1号ビザの技能水準及び評価基準【漁業】

漁業分野における「漁業」業務の特定技能1号ビザを取得するためには、下記試験の合格が必要です。

合格の基準は、漁業における一定程度の業務について、監督者の指示を理解し的確に遂行できる能力又は自らの判断により遂行できる能力を測り、漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等を行うことができるレベルとされています。

「漁業技能測定試験(仮称)(漁業)」
試験言語:日本語(ひらがな、カタカナ又はふりがなを付した漢字)
実施主体:2019年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:
 ① 筆記試験(真偽式又は多肢選択式)
 ② 実技試験(写真又はイラスト等を用いて実務能力を測るもの)
※①、②とも、コンピューター・ベースド・テスティング(C BT)方式の採用可
※漁業に3年以上従事した経験を有する者は②を免除
実施回数:年最大3回程度、国外実施を予定。また、国内でも実施予定。
開始時期:2019年4月~翌3月中予定

漁業分野特定技能1号ビザの技能水準及び評価基準【養殖業】

漁業分野における「養殖業」業務の特定技能1号ビザを取得するためには、下記試験の合格が必要です。

合格の基準は、養殖業における一定程度の業務について、監督者の指示を理解し的確に遂行できる能力又は自らの判断により遂行できる能力を測り、養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲(穫)・処理、安全衛生の確保等を行うことができるレベルとされています。

「漁業技能測定試験(仮称)(養殖業)」

試験言語:日本語(ひらがな、カタカナ又はふりがなを付した漢字)
実施主体:2019年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:
 ① 筆記試験(真偽式又は多肢選択式)
 ② 実技試験(写真又はイラスト等を用いて実務能力を測るもの)
※①、②とも、コンピューター・ベースド・テスティング(C BT)方式の採用可
※養殖業に3年以上従事した経験を有する者は②を免除
実施回数:年最大3回程度、国外実施を予定。また、国内でも実施予定。
開始時期:2019年4月~翌3月中予定

漁業分野特定技能1号ビザの日本語能力評価基準

日本語能力に関しては、新設予定の日本語能力判定テスト(仮称)に合格するか、日本語能力試験でN4以上が必要となります。

いずれの基準も、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力」が必要とされています。

① 日本語能力判定テスト(仮称)
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね6回程度、国外実施を予定
開始時期:2019年秋以降に活用予定
② 日本語能力試験(N4以上)
実施主体:独立行政法人国際交流基金及び日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。国外では80か国・地域・239都市で年おおむね1回から2回実施(2017年度)

評価試験等の免除(技能実習2号の修了)

技能実習生のうち、下記の技能実習2号を修了した場合は必要な技能水準・日本語能力水準を満たしているものとして、上記の技能・日本語能力の評価試験は不要となります。

漁業 漁船漁業職種8作業:
かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業
養殖業 養殖業職種1作業:
ほたてがい・まがき養殖作業

「漁業特定技能協議会(仮称)」の設置

農林水産省は、漁業分野の特定技能所属機関(特定技能ビザ所持外国人を雇う雇用主)、業界団体その他の関係者により構成される「漁業特定技能協議会(仮称)」(以下「協議会」という。)を組織するとされています。

この評議会の活動内容は下記の通りです。

  1. 漁業分野に特有の事情に応じた固有の措置の設定
  2. 外国人の受入れ状況の把握
  3. 不正行為に対する横断的な再発防止策
  4. 構成員に対する必要な情報の提供その他外国人の適正な受入れ及び外国人の保護に資する取組雇用側(特定技能所属機関)に対して特に課す条件

雇用側(特定技能所属機関)に対して特に課す条件

漁業分野における特定技能ビザ外国人の雇用側(特定技能所属機関)には一般的な就労ビザとは異なる基準が設けられています。

  • 労働者派遣形態(船員派遣形態を含む。以下同じ。)の場合特定技能所属機関となる労働者派遣事業者(船員派遣事業者を含む。以下同じ。)は、地方公共団体又は漁業協同組合、漁業生産組合若しくは漁業協同組合連合会その他漁業に関連する業務を行っている者が関与するものに限る
  • 特定技能所属機関は、「漁業特定技能協議会(仮称)」(以下「協議会」という。)の構成員になること。
  • 特定技能所属機関は、協議会において協議が調った措置を講じること。
  • 特定技能所属機関及び派遣先事業者は、協議会及びその構成員に対し、必要な協力を行うこと。
  • 漁業分野の外国人を受け入れる特定技能所属機関が登録支援機関に支援計画の全部又は一部の実施を委託する場合には、当該登録支援機関が、制度上、協議会の構成員になることを必ず求めるものではありませんが、上記同様、協議会及びその構成員 に対し必要な協力を誠実に行う登録支援機関に対し委託することが不可欠です。

派遣が可能

特定技能ビザの多くは直接雇用のみとなっていますが、漁業分野については派遣が認められています。

漁業は対象魚種や漁法等によって繁忙期・ 閑散期の時期が異なりますし、事業者の多くが零細、就労場所も分散していることから、地域内における業務の繁閑を踏まえた労働力の融通、雇用・支援の一元化といった漁業現場のニーズに対応するためです。

地域内の繁忙・閑散期に応じて特定技能ビザの外国人労働力を融通し合いましょうということですね。

1号特定技能外国人支援について

雇用側に必要な事項は上記以外にもあります。特定技能1号ビザの外国人の受け入れにあたって、1号特定技能外国人支援計画の策定と実行が必要です。技能実習制度における監理団体が担っていた部分と理解してもらえればいいと思います。日本に不慣れな外国人のお世話をするということになりますが、例えば、空港へ出迎えへや見送り、生活支援や相談などが挙げられます。

これらの策定と実行は、雇用側(特定技能所属機関)が主体になることもできますし、登録支援機関に外注することも可能です。また、前述の通り、漁業については漁業分野に固有の基準に適合している登録支援機関であることが必要です。

漁業分野における受け入れ見込み数について

漁業分野における特定技能ビザ1号の在留資格の向こう5年間で受け入れ見込み数は最大9千人です。

受け入れ見込み数を超える場合

受け入れ見込み数、漁業分野であれば9千人を超える見込みになった場合、受け入れ停止措置ルールが設けられています。そして、受け入れ再開のルールも盛り込まれています。

おそらく、年度毎に受け入れ人数を決めて労働者数が年度によって大きくばらつきが無いように調整するものと予想します。つまり、毎年○千人などの目標値を決め、超えれば受けれ入れ停止、年度が変われば再開といった具合にです。特定技能ビザの取得は早いもの勝ちになるかもしれません。

人手不足の状況の確認方法

下記の指標で国土交通大臣は状況把握することになっています。

  1. 漁業分野の1号特定技能外国人在留者数(3か月に1回法務省から農林水産省に提供)
  2. 有効求人倍率
  3. 公的統計等による漁業就業者数
  4. 「漁業特定技能協議会(仮称)」による特定技能所属機関等からの状況把握等

受け入れ見込み数が増減?

人手不足の状況に応じて運用方針の見直しの検討・発議等をすることになっています。つまり、当初は9千人でしたが、増減する可能性があるということです。

その他の在留資格

特定技能ビザ以外の在留資格でも、これらの業種で働くことができる場合があります。

技術・人文知識・国際業務ビザ

営業などホワイトカラー職種はこちらです。

配偶者ビザ・定住者ビザ・永住者ビザ

これらの在留資格は「就労制限がない」ので、日本人と同じように雇用することが可能です。

留学ビザや家族滞在ビザなど資格外活動許可所持者

留学ビザをお持ちの外国人の多くは「資格外活動許可」を持っています。家族滞在ビザも同様です。

この許可を持っていれば、業種を問わず週28時間の労働が可能です。