※先日お手紙を送っていただいた方、情報交換させていただきたいのでご連絡いただけますでしょうか。

入管法改正で新在留資格:特定技能が制定されましたね。技能実習生からの切り替えも多数見込んでいますが、そうすると技能実習制度が無くなるのではないかという事について考えてみます。

技能実習生が担っていた労働市場

技能実習生の在留資格は技能実習1号、技能実習2号、技能実習3号の3体系で285,766人です(2018年6月時点)。これは就労ビザの中でも最も多い人数です(次点は技術・人文知識・国際業務の212,403人) 。

そして、技能実習制度で就労できる分野はいわゆる単純労働・ブルーカラーのお仕事で、技能実習生は農場や工場、建設現場や漁業などで働いています。いずれも労働力が不足している業種ですね。技能実習生が日本の労働力を補完していると言えます。

また、外国人としても母国よりも稼げる日本で働きたいという気持ちがありますので、労働力が不足する日本の労働市場とマッチしていたという訳です。

※そもそも技能実習制度は日本の労働力不足のための制度ではありません。日本で習得した技術を母国に持ち帰ることによって発展途上国へ技術移転を促進するための「人づくり」を趣旨とした制度です。しかし、今日では労働力の確保する手段として1次産業、2次産業で利用されています。

なぜ外国人は技能実習制度を利用するのか

入管法改正にあたって技能実習生のブラックな労働環境のニュースが頻繁に流れましたね。また、日本に働きに行くために多額の借金を抱えていることも紹介されていました。

なぜ、他に就労ビザがあるのにそこまでして「技能実習」という在留資格(ビザ)で来日するのか。

その理由は、他の就労ビザが取れないからです。

技能実習以外の就労ビザ、例えば最も取得数の多い在留資格:技術・人文知識・国際業務の取得要件の一つに、高卒以上、または実務経験10年という高いハードルがあります。

また、技術・人文知識・国際業務も含め技能実習以外の在留資格は基本的にホワイトカラーと呼ばれる職種が主になり、単純労働・ブルーカラーのお仕事はできません。外国人雇用に意欲旺盛な労働市場では一般的な就労ビザは取得できないのです。

つまり、学歴・実務経験が不要で就労目的での来日が容易であること、労働市場の需要が高いことが、外国人労働者にとって技能実習ビザを選ぶ大きな理由となっています。

在留資格:特定技能の新設

2018年12月の入管法改正に伴い、2019年4月より業種ごとに順次スタートする新しい在留資格:特定技能。技能実習制度が担っていた労働市場をカバーする就労ビザです。対象となる業種は介護、外食業、製造業、農業、建設業など14業種。技能実習制度で対象となっていなかった介護、外食業での従事が可能ですので、日本の労働力不足に大きく寄与する就労ビザとして期待されています。

また、ビザ取得の要件に学歴・実務経験は採用されておらず、代わりに一定レベルの日本語能力と即戦力レベルの技能を有していることを求められています。

つまり、日本語が多少理解でき、手に職があれば取得可能ということです。

日本語と技能の測定は特定技能評価試験に合格することとされており、日本語能力試験であればN4(5段階評価で下から2番目)、自動車整備業であれば自動車整備士3級相当のレベルを想定されています。また、技能実習を修了後に特定技能へ切り替えの場合は試験免除されます。

この他にも、外国人労働者にとっては技能実習よりも大きなメリットがいくつもあります。ビザ取得のハードルが下がったことはもちろんですが、例えば、5年を超えて日本在留できる道が開けたこと、転職が可能、家族滞在や日本永住の可能性、来日コストの大幅減、などが挙げられます。

また、技能実習制度では労働者と雇用者の間に仲介の役割をする機関(送出し機関・管理団体※)が存在しますが、特定技能にこれらの機関の仲介は制度上不要です。外国人にとっては送出し機関への支払いが不要になり、雇用主にとっては管理団体への支払いが不要になりますので、労働者・雇用主にとっては金銭的なメリットも大きいと思われます。

ただし、監理団体が担っていた外国人支援をする機関として新たに登録支援機関が設けられています。この機関から支援を受ける場合は新たに費用が発生することになります。

※送出し機関:外国にある機関で、日本に労働者を送る役割を担う

※監理団体:送出し機関から労働者を日本に受け入れ、各企業に紹介し監理・監督する機関

技能実習→特定技能への切替見込み

技能実習を修了すれば日本語能力と技能の試験が免除されるルールになっている通り、特定技能は技能実習からの切り替えを相当数見込んでいます。

新たに対応する介護・外食業の分野については、そもそも対応している技能実習がありませんので切り替えは見込んでいませんが、農業・建設業であれば90%以上、製造業であれば分野によって異なりますが70%から100%見込んでいるものもあります。

技能実習生の送出し機関は特定技能へ舵を切っている!

送出し機関とは外国にある機関で日本に自国の労働者を「集めて」「送り出す」役割があります。技能実習制度の入口を担っていた機関ですが、その業界に詳しい方の話では、特定技能の新設を受けて技能実習生を集めるのではなく特定技能へ注力し始めているということです。

この動きは当然でしょう。新設の在留資格に対応することは事業として必須ですし、より人が集まりやすい条件が整っている方へシフトするのは当然でしょう。何と言っても労働者にとっては特定技能の方がメリットがありますので、そちらに労働力が流れることは容易に想定できます。

また、2019年4月に開始される特定技能は一部の分野に限られ、例えば建設業であれば2020年3月までに開始として現在は未定です。そのため、建設業で来日を希望している人も、分野を変えて特定技能で早期来日を目指すこともあるでしょう。

ベトナム人の技能実習に明るい方から伺った話ですので他国の動きは異なるかもしれません。しかし、市場原理や労働者の心情を踏まえれば、送出し機関が特定技能へ舵を切ることは当然であり、他国でも同様の動きになると思われます。

ただし、特定技能の受け入れ対象国は決まっており、当面はベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア 、ネパール、モンゴルです。それ以外の国の送出し機関は従来通りの動きになるはずですが、受け入れ対象国は追加される見通しですので時間の問題です。

これらのことを踏まえると、送出し機関は人材紹介業へシフトしていくと言えます。また、送出し機関の設立には要件がありますが、人材紹介業については各国の別の法律によることになります。そのため、今後は従来の送出し機関以外にもブローカーなども直接日本へ労働者を送り込むことになると思います。

※日本での人材紹介業は許可が必要です。おそらく他の国でも似たような許可が必要だと思われますので、お付き合いをする際には許可の有無を確認しましょう。

監理団体の行方?登録支援機関へ移行を想定

技能実習生が集まらなければ、日本側の受入れ機関である監理団体の仕事が無くなっていきますよね。しかし、特定技能では外国人労働者の日本在留支援が必要とされており、技能実習制度でその役割を担っていた監理団体は登録支援機関に移行することが見込まれています。

それは当然ですよね。面倒を見ていた技能実習生の人数が減るのですから、これから急増する特定技能分野への進出はマストでしょう。これまで培ってきたノウハウも生きます。

ただし、監理団体は登録支援機関へ移行すれば安泰というわけではありません。管理団体は事業組合団体や商工会などの「非営利団体」に限定されていましたが、登録支援機関は「営利団体」もなることができ、支援体制を備えた業界団体や民間法人、社労士等が想定されています。つまり、新規参入してきた法人と競合するということになります。

とはいえ、全ての監理団体が即座に競争にさらされるわけではありません。

特定技能は2019年4月からすぐに対象分野に開放されるわけではなく、4月では介護・外食業・宿泊業が開始されるのみで、他のほとんどの分野は2020年3月までに開始されるとされています。

そして、各監理団体は全分野の技能実習をカバーしているわけではなく、特定の分野に特化しています。例えば農協組合の管理団体であれば農業分野で技能実習生の受け入れに特化しています。

つまり、管理団体の取り扱い分野によって競争にさらされるタイミングが異なるということです。

ただし、先ほどの「技能実習生の送出し機関は特定技能へ舵を切っている!」で触れた通り、技能実習制度対応分野の募集に集まらない可能性があります。そうなると、管理団体は取り扱い分野が特定技能に開放される前に事業規模の縮小を余儀なくされるかもしれません。

おわりに

特定技能の新設によって、技能実習制度は間違いなく縮小していきます。技能実習制度は「労働者」「送出し機関」「監理団体」「雇用主」が存在していましたが、特定技能の法制度上では「労働者」「雇用主」、そして補助機関として「登録支援機関」があるのみです。

そして、従来の「送出し機関」は母国と日本を繋ぐ人材紹介業へ、「監理団体」は登録支援機関に移行していくと思われます。

また、技能実習制度の「送出し機関」「監理団体」には設立要件があったところ、人材紹介業は各国の法律に拘束されるのみ、登録支援機関は営利団体にも開放されていることから、外国人の方が来日するための入り口、働くための入り口は多様化していきます。

多様化していくことはビジネスチャンスでもあるわけで、技能実習制度の閉ざされた世界には無かったビジネスが今後生まれてくると思います。

私は行政書士ですが、そうしたビジネスのお手伝いができないか、昼夜問わず頭を悩ませているところです。特定技能の相談、登録支援機関に関する相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談くださいね。

※2019年1月現在、法改正は決定していますが新設の就労ビザである特定技能の詳細は確定しておりません。現時点で政府から公表されている情報に基づいて記しています。

※2019年3月現在、多数の登録支援機関のご依頼をいただいております。