入管法改正により2019年4月からスタートした新しい在留資格:特定技能(以下、特定技能ビザ)。人手不足とされる14分野に限って認められる就労ビザの1つです。

ここでは、造船・舶用工業分野の特定技能ビザについてご説明致します。

特定技能ビザを取得するための条件は、日本語能力と即戦力となる専門性・技能を持っていることですが、技能実習制度の後継という性質も持ち合わせているため、他の就労ビザにはない基準も多々あります。

造船・舶用工業分野の特定技能ビザの基準は、外国人本人と雇用主双方に設けられています。

  • 外国人本人の条件(一定レベルの技能と日本語能力)
  • 雇用主(特定技能所属機関)の条件

造船・舶用工業分野が特定技能ビザの対象となった趣旨・目的

2017年度における「造船・舶用工業分野」の有効求人倍率は最も低い溶接(金属溶接・溶断工)2.5倍で、電気機器組立て(電気工事作業員)2.89倍、機械加工(数値制御金属工作機械工)3.45倍、塗装(塗装工)4.30倍、鉄工(鉄工、製缶工)4.21倍、仕上げ(めっき工、金属研磨工)4.41倍と続いており、完全に労働者不足となっています。

この不足する労働力を外国人人材で補いたいということで、造船・舶用工業分野が特定技能ビザの対象となっています。

また、政府の算出では現時点で6,400人、5年後には2万2,000人程度の労働力が不足するとされています。そして、生産性の向上や国内人材の確保である程度の労働力を補える見込みであり、それでも足りない1万3千人を特定技能ビザで補おうとしています

造船・舶用工業分野の特定技能ビザが認められる仕事内容

特定技能ビザが認められる造船・舶用工業分野の仕事内容は、造船・舶用工業に関する「溶接」「塗装」「鉄工」「仕上げ」「機械加工」「電気機器組立て」とされています。

また、従事する日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することは差し支えないとされています。

◆関連業務一覧

  • 読図作業
  • 作業工程管理
  • 検査(外観,寸法,材質,強度,非破壊,耐圧気密等)
  • 機器・装置・工具の保守管理
  • 機器・装置・運搬機の運転
  • 資材の材料管理・配置
  • 部品・製品の養生
  • 足場の組立て・解体
  • 廃材処理
  • 梱包・出荷
  • 資材・部品・製品の運搬
  • 入出渠
  • 清掃

※専ら関連業務に従事することは認められません。つまり、専任でこれらの仕事に就くことはできません。

造船・舶用工業分野の対象となる事業者

造船・舶用工業分野の特定技能ビザは、造船・舶用工業分野に係る事業を営む事業者しか受け入れることができません。

また、造船・舶用工業分野特定技能協議会に加入が必要です。

「造船・舶用工業分野に係る事業を営む事業者」について

「造船・舶用工業分野に係る事業を営む事業者」については、ビザ申請前に「確認通知書」を国土交通省から取得しなければなりません。

国土交通省の海事局船舶産業課へ申請します。

◆必要書類

  • 申請書
  • 全部事項証明書
  • 事業内容によっては請負契約書、売買契約書、定款、有価証券報告書等

◆申請期間

1か月程度

造船・舶用工業分野特定技能協議会について

特定技能ビザで外国人を雇用する場合、いずれの分野においてもそれぞれの分野の協議会への加入が必要となります。造船・舶用工業分野については登録支援機関も加入が必須となっています。

活動内容については後述します。

また、上記の「造船・舶用工業分野に係る事業を営む事業者」の確認通知書の申請と一緒に協議会への加入を申し込めますので、一緒に申請してもいいと思います。私も先日、お客様に一緒に申請するようにお願いしました。

特定技能1号、2号について

特定技能には1号、2号の2種類があり、1号は期間工という位置づけ、2号は長期在留が可能で様々な優遇措置が設けられています。

造船・舶用工業分野は1号、2号のどちらも認められていますので、雇用期間は最長で5年となります。また、特定技能1号ビザは技能実習生とは異なり他の在留資格への変更は認められていますので、特定技能ビザ以外へ変更ができれば5年を超えての雇用も可能です。

また、造船・舶用工業分野は特定技能2号も可能とお伝えしましたが、「溶接」のみとなっています。特定技能2号用の評価試験の合格と、複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験が2年以上必要とされていますのでご注意ください。

特定技能1号ビザ特定技能2号ビザ
在留期間最長5年制限無し
家族帯同不可可能
開始スタート2019年4月無し
他の在留資格への
変更
可能可能

特定技能ビザの取得条件は、様々な条件を満たす必要があります。外国人本人は人材に関する事項をクリアしなければなりません。

また、外国人本人に課せられる条件以外に、雇用主(特定技能所属機関)に課される事項も設けられています。本人の素養以外にも雇用側もクリアしなければならない条件があるということです。

特定技能ビザを取れないケース

入管法の適切な運用のために、以下に該当する方は特定技能ビザを取得が困難です。

①退学・除籍処分となった留学生
②失踪した技能実習生
③短期滞在ビザで来日中の外国人
④帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人
⑤もともと他の在留資格(ビザ)に変更が予定されている外国人

ただし、「相当の理由があるとは認められない」と判断された場合の話ですので、絶対ではありません。例えば失踪した技能実習生であれば、失踪せざるを得ない理由(暴力や賃金未払い)などであれば可能性はあると考えています。

また、④の「帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人」には、活動計画を立てて来日した研修ビザや技能実習生も含まれますが、あくまでも計画を投げだして特定技能ビザに変更ができないだけであり、計画が終了したタイミングでの特定技能ビザへの変更は可能です。

特定技能1号ビザの条件(人材の基準に関する事項)

特定技能ビザを取得する外国人労働者には一定以上の「技能」と「日本語能力」が求められます。その能力を測るために、評価試験の合格や資格取得が条件とされています。

また、一定の技能実習生については上記の試験免除されますので、技能実習2号ビザを修了した外国人は特定技能1号ビザへの変更が可能です。もちろん一度帰国した元技能実習生も同様に試験免除されます。

造船・舶用工業分野特定技能1号ビザの技術水準及び評価基準

造船・舶用工業分野における特定技能1号ビザに求められる技能の評価水準は「従事しようとする業務に必要な相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有していること」とされています。

そして、ある程度の日本語能力です。日本語能力で言えばN4以上とされています。

造船・舶用工業分野の特定技能ビザを取得するためには、下記試験の合格が必要です。

技能評価試験(特定技能1号ビザ)

業務区分によって評価試験が分かれています。

また、特定技能1号用に始まる業務ごとの評価試験か、もともと日本に制度としてあった技能検定のどちらかの合格が必要となります。

評価試験はまずフィリピンで始まる予定となっております。その後、順次海外で始まる予定となっています。

業務区分評価試験技能検定
溶接(手溶接,半自動溶接)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(溶接)無し
塗装(金属塗装作業,噴霧塗装作業)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(塗装)技能検定3級(塗装)
鉄工(構造物鉄工作業)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(鉄工)技能検定3級(鉄工)
仕上げ(治工具仕上げ作業,金型仕上げ作業,機械組立仕上げ作業)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(仕上げ)技能検定3級(仕上げ)
機械加工(普通施盤作業,数値制御施盤作業,フライス盤作業,マシニングセンタ作業)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(機械加工)技能検定3級(機械加工)
電気機器組立て(回転電気組立て作業,変圧器組立て作業,配電盤・制御盤組立て作業,開閉制御器具組立て作業,回転電気巻線製作作業)造船・舶用工業分野 特定技能1号評価試験(仮称)(電気機器組立て)技能検定3級(電気機器組立て)

造船・舶用工業分野特定技能1号ビザの日本語能力評価基準

日本語能力に関しては、新設予定の日本語能力判定テスト(仮称)に合格するか、日本語能力試験でN4以上が必要となります。

いずれの基準も、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力」が必要とされています。

①日本語能力判定テスト(仮称)
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね6回程度、国外実施を予定
開始時期:2019年秋以降
②日本語能力試験(N4以上)
実施主体:独立行政法人国際交流基金及び日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。国外では80か国・地域・239都市で年おおむね1回から2回実施(平成29年度)

評価試験等の免除(技能実習2号の修了)

造船・舶用工業分野の技能実習生は技能実習2号を修了すれば上記の技能に関する試験・日本語能力に関する試験の合格は必要ありません。

技能実習:職種技能実習:作業特定技能:業務区分
溶接手溶接
半自動溶接
溶接(手溶接,半自動溶接)
塗装金属塗装
噴霧塗装
塗装(金属塗装作業,噴霧塗装作業)
鉄工構造物鉄工鉄工(構造物鉄工作業)
仕上げ治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立て仕上げ
仕上げ(治工具仕上げ作業,金型仕上げ作業,機械組立仕上げ作業)
機械加工普通施盤
フライス盤作業
数値制御旋盤
マシニングセンタ
機械加工(普通施盤作業,数値制御施盤作業,フライス盤作業,マシニングセンタ作業)
電気機器組立て回転電気組立て
変圧器組立て作業
配電盤・制御盤組立て
開閉制御器具組立て
回転電気巻線製作
電気機器組立て

「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の設置

国土交通省が「造船・舶用工業分野特定技能協議会」(以下「協議会」という。)を組織するとされています。

雇用主(特定技能所属機関)はこの協議会の構成員にならなくてはなりません。登録支援機関も加入が必要です。

この評議会の活動内容は下記の通りです。

  • 1号特定技能外国人の受入れに係る状況の全体的な把握
  • 問題発生時の対応
  • 法令遵守の啓発
  • 特定技能所属機関の倒産等の際の1号特定技能外国人に対する転職支援及び帰国担保
  • 就業構造の変化や経済情勢の変化に関する情報の把握・分析

雇用側(特定技能所属機関)に対して特に課す条件

造船・舶用工業分野における特定技能ビザ外国人の雇用側(特定技能所属機関)には一般的な就労ビザとは異なる基準が設けられています。

  1. 造船・舶用工業分野に係る事業を営む事業者であること
  2. 「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員になること
  3. 協議会に対し、必要な協力を行うこと
  4. 国土交通省は又はその委託を受けた者が行う調査等に対し、必要な協力を行うこと
  5. 登録支援機関を利用する場合は、協議会の構成員となっている登録支援機関を利用すること
  6. 直接雇用であること(派遣NG)

1号特定技能外国人支援について

雇用側に必要な事項は上記以外にもあります。特定技能1号ビザの外国人の受け入れにあたって、1号特定技能外国人支援計画の策定と実行が必要です。技能実習制度における監理団体が担っていた部分と理解してもらえればいいと思います。日本に不慣れな外国人のお世話をするということになりますが、例えば、空港へ出迎えへや見送り、生活支援や相談などが挙げられます。

これらの策定と実行は、雇用側(特定技能所属機関)が主体になることもできますし、登録支援機関に外注することも可能です。また、前述の通り、造船・舶用工業分野については登録支援機関が協議会の構成員になっていることが必要です。

造船・舶用工業分野における受け入れ見込み数について

造船・舶用工業分野における特定技能ビザ1号の在留資格の向こう5年間で受け入れ見込み数は最大1万3千人です。

受け入れ見込み数を超える場合

造船・舶用工業分野の特定技能1号ビザ外国人の受け入れ見込み数が1万人3千人を超える見込みになった場合、受け入れ停止措置ルールが設けられています。そして、受け入れ再開のルールも盛り込まれています。

おそらく、年度毎に受け入れ人数を決めて労働者数が年度によって大きくばらつきが無いように調整するものと予想します。つまり、毎年○万人などの目標値を決め、超えれば受けれ入れ停止、年度が変われば再開といった具合にです。特定技能ビザの取得は早いもの勝ちになるかもしれません。

受け入れ見込み数が増減?

人手不足の状況に応じて運用方針の見直しの検討・発議等をすることになっています。つまり、当初は1万3千人でしたが、増減する可能性があるということです。

その他の在留資格

特定技能ビザ以外の在留資格でも、これらの業種で働くことができる場合があります。

技術・人文知識・国際業務ビザ

設計や営業などホワイトカラー職種はこちらです。

配偶者ビザ・定住者ビザ・永住者ビザ

これらの在留資格は「就労制限がない」ので、日本人と同じように雇用することが可能です。

留学ビザや家族滞在ビザなど資格外活動許可所持者

留学ビザをお持ちの外国人の多くは「資格外活動許可」を持っています。家族滞在ビザも同様です。

この許可を持っていれば、業種を問わず週28時間の労働が可能です。