入管法改正により2019年4月よりスタートする新しい在留資格:特定技能(以下、特定技能ビザ)。人手不足とされる14分野に限って認められる就労ビザの1つです。

ここでは、電気・電子情報関連産業分野の特定技能ビザについてご説明致します。

特定技能ビザを取得するための条件は、日本語能力と即戦力となる専門性・技能を持っていることですが、技能実習制度の後継という性質も持ち合わせているため、他の就労ビザにはない基準も多々あります。

電気・電子情報関連産業分野の特定技能ビザの基準は、外国人本人と雇用主双方に設けられています。

  • 外国人本人の条件(一定レベルの技能と日本語能力)
  • 雇用主(特定技能所属機関)の条件

※当記事はH30/12/25閣議決定案・令和2年2月運用要領を参考に執筆しています。

電気・電子情報関連産業分野が特定技能ビザの対象となった趣旨・目的

2017年度における「電気・電子情報関連産業分野」の有効求人倍率は2.75倍で、労働者不足が顕著になっています。また、①生産現場の改善の徹底や、②研修・セミナー等、人材育成の継続的な取組を実施したり、経済産業省が企業による設備投資やIT導入を支援する施策の等の生産性向上の取組を支援していますが、それでも人員が不足しています。

そのため、慢性的に不足する労働力を外国人人材で補いたいということで、電気・電子情報関連産業分野が特定技能ビザの対象となっています。

政府の算出では向こう5年間で6万2千人の労働力不足になるとされています。そして、生産性の向上や国内人材の確保で約5万7千人の労働力を補える見込みであり、それでも足りな4,700人を特定技能ビザで補おうとしています

電気・電子情報関連産業分野の特定技能ビザが認められる仕事内容

電気・電子情報関連産業分野で認められる仕事内容は、相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務にとされています。具体的な業務は後ほどご説明します。

あわせて、これらの業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することは差し支えないとされています。

関連業務として法務省に例示されているものはこちらです。

  • 原材料・部品の調達・搬送作業
  • 各職種の前後工程作業
  • クレーン・フォークリフト等運転作業
  • 清掃・保守管理作業

電気・電子情報関連産業分野の対象となる事業者

特定技能ビザは、それぞれの分野ごとの協議会に加入することが必須となっていますが、電気・電子情報関連産業分野などの製造業3分野(素形材産業分野、産業機械製造業分野、電気・電子情報関連産業分野)については、特定の業種しか加入できません。

特定技能1号、2号について

特定技能には1号、2号の2種類があり、1号は5年の期間工という位置づけです。2号は長期在留が可能で様々な優遇措置が設けられています。

電気・電子情報関連産業分野は1号のみ認められていますので、雇用期間は最長で5年となります。ただし、技能実習生とは異なり他の在留資格への変更は認められていますので、 特定技能ビザ以外へ変更ができれば5年を超えての雇用も可能です。

特定技能1号ビザ特定技能2号ビザ
在留期間最長5年制限無し
家族帯同不可可能
開始スタート2019年4月無し
他の在留資格への
変更
可能可能

特定技能ビザの取得条件は、様々な条件を満たす必要があります。外国人本人は人材に関する事項をクリアしなければなりません。

また、外国人本人に課せられる条件以外に、雇用主(特定技能所属機関)に課される事項も設けられています。本人の素養以外にも雇用側もクリアしなければならない条件があるということです。

特定技能1号ビザの条件(人材の基準に関する事項)

特定技能ビザを取得する外国人労働者には一定以上の「技能」と「日本語能力」が求められます。その能力を測るために、評価試験の合格や資格取得が条件とされています。

また、一定の技能実習生については上記が免除されます。

電気・電子情報関連産業分野における特定技能1号ビザでの業務区分

特定技能1号ビザの業務は、指導者の指示・監督を受けながらの作業となります。詳細は下記の通りです。

業務名業務内容
機械加工指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、旋盤、フライス盤、ボール盤等の各種工作機械や切削工具を用いて金属材料等を加工する作業に従事
金属プレス加工指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて、曲げ、成形、絞り等を行い成形する作業に従
工場板金指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立てを行う作業に従事
めっき指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、腐食防止等のため金属等の材料表面に薄い金属を被覆する作業に従事
仕上げ指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、手工具や工作機械により部品を加工・調整し、精度を高め、部品の仕上げ及び組立てを行う作業に従事
機械保全指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する作業に従事
電子機器組立て指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、電子機器の組立て及びこれに伴う修理を行う作業に従事
電気機器組立て(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、電気機器の組立てや、それに伴う電気系やメカニズム系の調整や検査を行う作業に従事)
プリント配線板製造指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、半導体等の電子部品を配列・接続するためのプリント配線板を製造する作業に従事
プラスチック成形指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、プラスチックへ熱と圧力を加える又は冷却することにより所定の形に成形する作業に従事
塗装指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う作業に従事
溶接指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、熱又は圧力若しくはその両者を加え部材を接合する作業に従事
工業包装指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、工業製品を輸送用に包装する作業に従事
電気・電子情報関連産業分野の業務区分

産業機械製造業分野特定技能1号ビザの技術水準及び評価基準

電気・電子情報関連産業分野における特定技能1号ビザに求められる技能の評価水準は、業務で必要とされる一定の専門性・技能を有し、即戦力となるに足りる相当程度の知識又は経験を有するものとされています。

電気・電子情報関連産業分野の特定技能ビザを取得するためには、下記試験の合格が必要です。

製造分野特定技能1号評価試験
試験言語:現地語
実施主体:株式会社サーティファイ
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式、ペーパーテスト方式又は製作等作業試験方式

電気・電子情報関連産業分野分野特定技能1号ビザの日本語能力評価基準

日本語能力に関しては、国際交流基金日本語基礎テストに合格するか、日本語能力試験でN4以上が必要となります。

いずれの基準も、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力」が必要とされています。

② 日本語能力試験(N4以上)
実施主体:独立行政法人国際交流基金及び日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。国外では80か国・地域・239都市で年おおむね1回から2回実施(平成29年度)
③ 国際交流基金日本語基礎テスト
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:外務省と国際交流基金が協議の上、事業年度ごとに複数回実施する。

評価試験等の免除(技能実習2号の修了)

特定の職種の技能実習2号を修了した場合は必要な技能水準・日本語能力水準を満たしているものとして、上記の技能・日本語能力の評価試験は不要となります。

対象となる職種・作業名は下記の通りです。

【特定技能/技能実習】
業務/職種
【技能実習】
作業名
鋳造鋳鉄鋳物鋳造
非鉄金属鋳物鋳造
鍛造ハンマ型鍛造
プレス型鍛造
ダイカストホットチャンバダイカスト
コールドチャンバダイカスト
機械加工普通旋盤
フライス盤
数値制御旋盤
マシニングセンタ
金属プレス加工金属プレス
鉄工構造物鉄工
工場板金機械板金
めっき電気めっき
溶融亜鉛めっき
仕上げ指導治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立仕上げ
機械保全機械系保全
電子機器組立て電子機器組立て
電気機器組立て回転電機組立て
変圧器組立て
配電盤・制御盤組立て
開閉制御器具組立て
回転電機巻線製作
プリント配線板製造プリント配線板設計
プリント配線板製造
プラスチック成形圧縮成形
射出成形
インフレーション成形
ブロー成形
塗装建築塗装
金属塗装
鋼橋塗装
噴霧塗装
溶接手溶接
半自動溶接
工業包装工業包装
電気・電子情報関連産業分野の業務区分

特定技能ビザを取れないケース

入管法の適切な運用のために、以下に該当する方は特定技能ビザを取得が困難です。

①退学・除籍処分となった留学生
②失踪した技能実習生
③短期滞在ビザで来日中の外国人
④帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人
⑤もともと他の在留資格(ビザ)に変更が予定されている外国人

ただし、「相当の理由があるとは認められない」と判断された場合の話ですので、絶対ではありません。例えば失踪した技能実習生であれば、失踪せざるを得ない理由(暴力や賃金未払い)などであれば可能性はあると考えています。

また、④の「帰国することが前提の在留資格(ビザ)の外国人」には、活動計画を立てて来日した研修ビザや技能実習生も含まれますが、あくまでも計画を投げだして特定技能ビザに変更ができないだけであり、計画が終了したタイミングでの特定技能ビザへの変更は可能です。

「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」の設置

経済産業省が管轄し、関係業界団体と特定技能受入機関により構成される「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」(以下「協議会」という。)があり、特定技能を雇用する事業者(特定技能所属機関)は構成員にならなくてはなりません。

この協議会の活動内容は下記の通りです。

  • 外国人の受入れ状況及び課題(地域差に係る状況及び課題を含む。)並びに対応方策
  • 不正行為の抑止に資する取組・防止策
  • その他外国人材の適正な受入れ及び外国人の保護に資する情報・取組

また、協議会は希望すれば加入できるという訳ではありません。電気・電子情報関連産業分野の1号特定技能外国人が活動を行う事業所が下記14項目のどれかに当てはまらなければなりません。

また、特定技能ビザの外国人が、その産業の製品の製造に携わる必要があります

■電気・電子情報関連産業分野における特定技能が可能な日本標準産業分類に掲げる産業

  1. 中分類28-電子部品・デバイス・電子回路製造業
  2. 中分類29-電気機械器具製造業(細分類2922-内燃機関電装品製造業及び細分類2929-その他の産業用電気機械器具製造業(車両用,船舶用を含む)を除く。)
  3. 中分類30-情報通信機械器具製造業

それぞれの産業の詳細については、こちらから検索してご確認ください。

雇用側(特定技能所属機関)に対して特に課す条件

電気・電子情報関連産業分野における特定技能ビザ外国人の雇用側(特定技能所属機関)には一般的な就労ビザとは異なる基準が設けられています。

  1. 協議会の構成員になること
  2. 協議会に対し、必要な協力を行うこと
  3. 経済産業省や協議会が行う調査等に対し、必要な協力を行うこと
  4. 直接雇用であること(派遣はNG)

1号特定技能外国人支援について

雇用側に必要な事項は上記以外にもあります。特定技能1号ビザの外国人の受け入れにあたって、1号特定技能外国人支援計画の策定と実行が必要です。技能実習制度における監理団体が担っていた部分と理解してもらえればいいと思います。日本に不慣れな外国人のお世話をするということになりますが、例えば、空港へ出迎えへや見送り、生活支援や相談などが挙げられます。

これらの策定と実行は、雇用側(特定技能所属機関)が主体になることもできますし、登録支援機関に外注することも可能です。

電気・電子情報関連産業分野における受け入れ見込み数について

電気・電子情報関連産業分野における特定技能ビザ1号の在留資格の向こう5年間で受け入れ見込み数は最大4,700人です。

受け入れ見込み数を超える場合

受け入れ見込み数が上限を超える見込みになった場合、受け入れ停止措置ルールが設けられています。そして、受け入れ再開のルールも盛り込まれています。

おそらく、年度毎に受け入れ人数を決めて労働者数が年度によって大きくばらつきが無いように調整するものと予想します。つまり、毎年○万人などの目標値を決め、超えれば受けれ入れ停止、年度が変われば再開といった具合にです。特定技能ビザの取得は早いもの勝ちになるかもしれません。

その他の在留資格

特定技能ビザ以外の在留資格でも、これらの業種で働くことができる場合があります。

技術・人文知識・国際業務ビザ

製造そのものに携わらない仕事であればこちらのビザが該当する可能性が高いです。例えば、営業職や施設管理、調達などです。

配偶者ビザ・定住者ビザ・永住者ビザ

これらの在留資格は「就労制限がない」ので、日本人と同じように雇用することが可能です。

留学ビザや家族滞在ビザなど資格外活動許可所持者

留学ビザをお持ちの外国人の多くは「資格外活動許可」を持っています。家族滞在ビザも同様です。

この許可を持っていれば、業種を問わず週28時間の労働が可能です。