外国人の方が転職した場合、その後に行うビザの更新で不許可になる=退職せざるを得ない状況になることがあります。素行不良など理由はいくつか考えられますが、そもそもお持ちのビザが転職先に適合していなかった可能性もあります。
外国人の方は就労ビザを取得時、外国人本人の学歴や実務経験と勤務先での仕事内容の法律上の適合性について審査されています。しかし、転職時は勤務先が変わりますのでマッチしているかの審査がされていない状態なんです。つまり、お持ちのビザで転職先に就職していいか国のお墨付きを貰えていない状態なんです。外国人の方は誰でも働ける・どこでも働けるものではありませんので、外国人本人はもちろん、雇用側もビザ(在留資格)について注意が必要です。
就労資格証明書とは
「就労資格証明書」とは、お持ちのビザ(在留資格)でこれから就く仕事が可能かを証明する書類で、入国管理局に交付申請をします。お持ちのビザで転職先に就職していいか国のお墨付きとも言い換えることができます。
下記は入管法の規定です。
(就労資格証明書)
第一九条の二 法務大臣は、本邦に在留する外国人から申請があつたときは、法務省令で定めるところにより、その者が行うことができる収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を証明する文書を交付することができる。
手続きについて
申請が可能なのは外国人本人となります。企業側で代理はできません。
申請場所は住所を管轄する入国管理局となります。
また、交付時には手数料900円が必要となります。
外国人側のメリット:不法就労・次回の在留資格更新不許可の防止
外国人側のメリットは2つあります。
まず1つ目は不法就労予防です。
お持ちのビザで可能とされる仕事以外に就くということは、不法就労なんです。外国人の方は許可された仕事にしか就労できません。そこで就労資格証明書を取得することで、転職がお持ちのビザの範囲内であることが証明され、安心して働くことができます。
2つ目は在留資格更新「不許可」の防止です。
ビザ(在留資格)は1年や3年などある程度の期間で更新をしなければなりません。更新の申請は期限の3ヶ月前からですが、この申請が不許可になったら…考えただけでも恐ろしいですね。就労資格証明書を取得しておくことで安心を手に入れることができます。また、就労資格証明書の取得時に審査がされているということで、ビザ更新の審査はスピーディーに行われます。
雇用側のメリット:不法就労助長の回避・退職防止
雇用側のメリットは2つあります。
まず1つ目は不法就労助長の防止です。
不法就労は外国人本人の問題と思いがちですが、「不法就労を助長した」として雇用主も罰則を受ける可能性があります。しかも罰則は重く、不法就労助長罪は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、または併科です。就労資格証明書を交付しておけば、外国人側のメリットでも説明した通り不法就労の防止になりますので、知らず知らずの内に不法就労を助長する(手助けしてしまっている)こともありません。
下記は不法就労助長罪に関する入管法の規定です。
第七三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
また、同条文の2号に「知らなかったでは済まされない」規定も盛り込まれていますので、雇用側としても注意が必要なんです(ただし、雇用主に過失があった場合に限る)。
第七三条の二 2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。
三 当該外国人が第七十条第一項第一号から第三号の二まで、第五号、第七号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。
2つ目は退職防止です。
外国人側のメリットでも説明した通り、外国人従業員のビザ更新で不許可になってしまうと退職させなければなりません。人を採用するには時間もかかりますし、お金もかかります。費用対効果も得られない間に会社を去られてしまうことは避けなくてはなりませんね。就労資格証明書を取得しておけば、少なくとも仕事内容で不許可になることは避けられますので、リスク回避になります。また、外国人の方の心配事の1つを取り除くことにもなりますので、従業員満足度を向上させる手段としてもいいかもしれません。
就労資格証明書が必要となるタイミング
「就労資格証明書」が必要となる主なタイミングは転職時です。現在お持ちのビザの許可時から就職先が変わった場合に取得することが望ましいです。
また、転職したらいつでも必要かというと、答えはNOです。プログラマーとしてA社からB社に転職した場合など、職業・仕事内容が変わらない場合などは、お持ちのビザの範囲内の就労と言えますので就労資格証明書の取得はあまり必要ではありません。
就労資格証明書が必要な転職は「職業・仕事内容が変わった」「言語環境が変わった」ときです。
職業・仕事内容が変わった場合をまず例示しますね。就労ビザの代表格である「技術・人文知識・国際業務」ビザはサラリーマンの方が主に取得される在留資格ですが、技術職の方が経理部門などに転職するなどの場合は許可された就労の範囲外となる可能性があります。なぜなら、経理部門で働くために必要な学歴要件や実務経験要件を満たさない可能性があるからです。
言語環境が変わった場合の例としては、中国人観光客の利用が多いホテルのフロントで「技術・人文知識・国際業務」ビザを持って働く中国人の方が、日本人しか来ない旅館のフロントへ転職した場合が挙げられます。前者の仕事はこの就労ビザの許可された範囲内の仕事ですが、後者の仕事は範囲外の可能性が高いです。なぜなら、中国語での通訳という「国際業務」に該当する仕事をしていたところから、日本人しか相手にしない環境になってしまい、「国際業務」の範囲外の仕事になってしまっている可能性が高いからです。
この線引きは外国人法務に詳しくなければなかなか難しいです。だからこそ、就労資格証明書の取得によって合法かどうかを明らかにしておくことが望ましいと言えますね。
就労資格証明書ではなく「在留期間更新許可申請」の方がGOODなタイミング
ビザの在留期間が残りわずかな場合はすぐにビザの更新をしなければなりません。そのため、在留期間が残り約3ヶ月であれば就労資格証明書を取るのではなく、在留期間更新許可申請(ビザの更新)をしてしまいましょう。
ただし、転職しないままの更新よりも慎重に審査されることになります。ビザの更新ができないというリスクもありますので、通常の更新より慎重に進めなければなりません。
注意点
就労資格証明書の交付申請をしたとしても、契約機関に関する届出・活動機関に関する届出は必要です。外国人本人が届出をしなければなりません。
ビザ(在留資格)の種類によって必要な届出が変わりますので、下記表をご参考にして下さい。
契約機関に関する届出 | 活動機関に関する届出 |
高度専門職1号イ又はロ 高度専門職2号(イ又は ロ) 研究 介護 技術・人文知識・国際業務 興行 技能 | 高度専門職1号ハ 高度専門職2号(ハ) 教授 教育 法律・会計 医療 経営・管理 企業内転勤 研修 技能実習 留学 |
「就労資格証明書」交付申請の必要書類
- 就労資格証明書交付申請書
- 資格外活動許可書を提示(同許可書の交付を受けている者に限ります。)
- 在留カード又は特別永住者証明書 提示
- 旅券又は在留資格証明書を提示
- 旅券又は在留資格証明書を提示することができないときは,その理由を記載した理由書
上記が法務省のホームページに公開されている必須書類です。
ただし、上記の書類だけでは不十分なケースがほとんどです。お持ちのビザを取得した時に提示した書類を思い出してください。雇用先についての資料も出していますよね?きちんと書類を集めて申請しなければ不許可になる可能性がありますし、審査に時間がかかって許可がなかなか下りない状況に陥ってしまいます。
「就労資格証明書」申請代行の料金
就労資格証明書は簡単に発行されるものではなく、事前準備をしっかりしておかなければ交付まで時間がかかったりしますし、また、要件を満たしていても不備やミスなどで発行されないこともあり得ますので、せっかくの転職先をフイにしてしまう可能性もあります。
弊所は外国人法務を専門に扱っている行政書士です。弊所にご依頼いただければ時間・労力の軽減はもとより、不交付されない状況であれば雇用状況・仕事内容等をコンサルティングをさせていただきます。
料金については下記ページでご確認お願いします。