就労ビザにカテゴライズされる在留資格のほとんどには、ビザ発給の条件に報酬規定があります。都道府県毎に定めらている最低賃金のように「時給○○○円以上」とは定められていませんが、一定の水準以上に設定しなければなりません。
外国人人材を雇用するためには、ビザの問題は必ずクリアしなければなりません。報酬(給料)を決定するためには、様々な視点で検討する必要があるんです。
このページでは、外国人人材を雇用するために必要な視点についてまとめ、更にビザ発給の視点で掘り下げていきます。
ポイント①外国人人材を集めるための魅力的な報酬設定
外国人人材は日本というフィールドで働くことにおいて「外国人」というだけで価値があります。 テレビなどでも外国人タレントが活躍していますよね。それは、日本人には無い何かを持っているから。モデルであれば容姿・スタイル、芸能人であれば文化や言語などが挙げられます。
「外国人=安い労働力」というイメージがありましたが、2018年現在、日本の労働力不足も相まってその方程式は過去のものになっています。
外国人人材には希少価値がある
企業においても、日本人人材よりも外国人人材の方が優れている、もしくはメリットがあるという仕事がたくさんあります。英語や中国語などの言語能力、母国出身者とのコミュニケーション能力、日本人には無い文化・バックグラウンドから生まれるアイディア、日本では取得が難しい技術を持っているetc…
そして、日本には外国人人材が少ない。
つまり、外国人人材には希少価値があるんです。
「〇〇の能力のある〇〇人を採用したい」と考えても、絶対数が少ないので見つけるのも大変ですし、他社に取られるかもしれません。そのため、高額報酬を設定しなければ要望を満たす外国人人材の採用は難しい場合があります。
人材の需要と供給
次に、視点を少し変えて考えてみましょう。ここまでは外国人人材の価値という視点でしたが、人材の需要と供給のバランスも考える必要があります。
これは、国籍を例に挙げると分かりやすいです。日本在住数が少ない国籍の方は貴重ですよね?特にヨーロッパ諸国出身者は日本にあまりいませんので、供給側としては少ないと言えます。
しかし、一方で需要側、つまり雇用側はどうかと言うと、ヨーロッパ諸国出身者を採用したがっている企業はそれほど多くありません。そのため、貴重な人材にもかかわらず募集企業が少ないため、報酬の高額化が必ずしも起こるとは言えないのです。
他の例も挙げてみます。近年、在日外国人数が急激に増えている国籍の1つにベトナムがあります。技能実習生として日本で働くベトナム人が増えているんです。でも、彼らの多くは日本語が苦手もしくは話せないため、日本人経営者や従業員との意思疎通が難しいという問題を抱えています。そのため、技能実習生としてではなく通訳としてベトナム人を雇用したいという需要が増えてきています。もちろん、日本語とベトナム語ができるベトナム人です。
でも、この人材、実はそれほど貴重ではありません。ベトナムでは日本で技能実習生として働くことは経済的メリットが大きいため、日本語を勉強しているベトナム人は結構います。母数が多いので、日本語能力が高いベトナム人も相当数いるということです。それに、雇用側としてもベトナム人人材にアクセスできる状況ですので、それほど労せずに希望する能力があるベトナム人人材を見つけることができます。
人材の供給が豊富で、見つけやすいという理由で報酬は高騰していないんです。
日本人人材と外国人人材のメリット・デメリット
日本人と外国人のメリット・デメリットはどうでしょう。
雇用側としては、日本人は扱いやすいことが最大のメリットです。それは、日本語で意思疎通ができること、共通事項が多くコミュニケーションを取りやすいこと、もともと日本人人材を前提として会社の仕組みを定めていることなどが挙げられます。
日本人と外国人では母国語の違いやバックグラウンドの違いでコミュニケーションをとることが難しいですし、ビザをはじめ外国人特有の制度、採用活動などに会社として配慮しなければなりません。もちろん、費用対効果も検討しなければなりません。
メリット・デメリットを比較し、日本人人材よりも外国人人材を採用する方が価値があるのであれば報酬を高く設定することもあるでしょう。
しかし、人件費は雇用側として大きな問題です。利益の圧迫になりますし、他の従業員とのバランスも見なければ社内から不平不満が溢れ出てきます。
外国人人材の魅力的な報酬設定まとめ
外国人人材は希少価値がありますが、需要と供給、メリット・デメリットのバランスを考慮する必要があります。結局のところ、外国人人材の報酬も市場原理の影響を受けますので、一部の例外を除き日本人と同等程度の報酬になるケースが圧倒的と思われます。
人材の取り合いが起きている市場では、繫ぎ止めるという意味でも高額報酬にすべきですね。
ポイント② 報酬額は日本人とのバランスを取るべし
先ほども少し触れましたが、同じ会社の中で働く人々の給料のバランスは考えなければなりません。
公的資格を持っていると基本給が上がるという制度を持っている企業は多くありますが、その金額はわずかなもので、月給が5万、10万と上がるという制度ではありません。
外国人人材は日本人は持っていない能力を持っていますが、その価値が数万円・数十万円の価値があるかどうかがポイントです。その価値があるのであれば高額な報酬でも構いませんが、他の従業員に示しのつかない理由であればお勧めはできません。
報酬は働くための大きな理由の1つです。他の従業員を簡単に納得させることができるほどの貴重な能力や優秀な能力であれば不協和音が顕在化することもそう無いでしょうが、やはり他の従業員とのバランスがとれないような特別な報酬設定は避けたほうがベターです。
お勧めは、外国人人材であっても日本人と同じ給料テーブルにしてしまうことです。あとは、語学等での手当てを創設したり、それでも報酬額がネックで人材獲得が困難であれば増額を検討しましょう。
ポイント③ 就労ビザを取るための報酬規定があります!
就労ビザには報酬について基準が設けられています。この基準をクリアしない限り、就労ビザを取ることはできませんので、せっかく採用したものの働いてもらうことができない事態に陥ってしまいます。
日本人と同等額以上の報酬が必要!
報酬の規定は下記のように表現されています。
日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること
日本人と同じ、または日本人以上の給料を支払うことになっていなければビザを取ることができません。
この規定の対象となる就労ビザはこちらになります。
経営・管理 | 研究 | 教育 |
技能 | 企業内転勤 | 介護 |
興行 | 技能実習1号 | 技能実習2号 |
技術・人文知識・国際業務 |
※興行ビザについては仕事内容によって報酬規定が異なります(例:基準1号の場合は20万円以上/月)
企業等でよく見られる就労ビザを太字にしていますが、就労ビザで雇用する場合は日本人と同等額以上の給料にしなければならないということが分かると思います。
また、「日本人と同等以上」は自社と比べる場合、他社と比べる場合の2パターンあります。
「日本人と同等額以上」を自社内で比較
基本的にはこのパターンです。外国人人材の報酬を自社内の他の従業員と報酬を比べて同等額以上の報酬とします。
「日本人と同等額以上」を他社と比較
従業員がまだいない状態や、初めて採用する職種等の場合、比較する日本人人材がいませんので他社と比べることになります。
他社と言ってもどこでもいいというわけではありません。同種の職種を比較する必要があります。例えば、外国人人材を研究職で雇用する場合、日本人の一般職と報酬を比べるのではなく、日本人研究職の報酬と比べる必要があります。
また、学歴と報酬もマッチさせる必要があります。日本企業の多くは学歴で給与テーブルを作っていますので、大学卒の外国人人材の報酬を高卒入社の日本人人材と比較するのではなく、大卒者と同等額以上の報酬に設定する必要があります。
報酬の考え方
報酬とは、「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」とされています。ただし、報酬は法律によって解釈・またその範囲が異なります。社会保険制度上での「報酬」や、労働基準法上の「賃金」は広義の意味では同じはずですが、実は違うんです。そしてビザを管轄する入管法ならびに関連法令上も異なります。
ですので、社保や労基に詳しい方は勘違いされる場合もありますので注意してください。ここではあくまでビザ関連法上の「報酬」として表現します。以下、就労ビザにおける報酬の定義についてご説明いたします。
報酬には賞与も含める
就労ビザの報酬規定における報酬の月額は「賞与等も含めた1年間の報酬の12分の1」です。
報酬には手当を含まない場合が多い
通勤手当・扶養手当・住宅手当等は報酬に含みません。これらの手当は仕事に対する対価ではなく「実費弁償の性格を有する」とされていますので、就労ビザの報酬規定からは省いて考えることになります。一方で、残業手当は労働に対する対価、役職手当や資格手当等は地位や能力を評価するものですので、報酬に含めて良いと考えることができます。
※課税対象となる手当は報酬に含まれるとされています。
報酬額の検討不要のビザ
就労ビザでの雇用は外国人人材への報酬を様々な観点、特にビザ取得の観点をよく検討する必要がありますが、いわゆる身分系のビザを持った外国人人材を雇用する場合はビザ取得の観点は不要になります。
- 定住者ビザ
- 永住者ビザ
- 配偶者ビザ(在留資格:日本人との配偶者等)
- 永住者の配偶者ビザ(在留資格:永住者の配偶者等)
これらの4つのビザは、日本または日本人との密接な関係性で取得できるビザですので、ビザ取得の条件に「就労」はありません。
そのため、雇用側としては身分系ビザをお持ちの外国人人材に関しては報酬規定で悩む必要はありません。日本人人材の雇用と同じように、人材獲得や社内規定の観点で報酬額を決めることができます(最低賃金など労基法は遵守してくださいね)。
身分系ビザから就労ビザへ変更は必要?
就職するからといって就労ビザへ切り替えなければならないというルールもありません。また、就労ビザよりも身分系ビザの方が都合がいいことも多く(例えば永住・帰化要件の緩和、就労制限が無いなど)、多くの外国人人材は身分系ビザを持ったまま就労されています。
ただし、身分系ビザはその取得要件を失った場合にはビザも失うことになります。例えば日本人と結婚して配偶者ビザをお持ちであっても、離婚をすれば配偶者ビザを失うことになりますので、この場合は就労ビザなど他のビザへの切替が必要となります。
報酬規定のある就労ビザのリンク集
技術・人文知識・国際業務ビザ
最も一般的な就労ビザです。
企業内転勤ビザ
海外の会社・グループ会社からの転勤を受け入れる場合はこちら。
研究ビザ
研究者は技術・人文知識・国際業務ビザではなく、専用のビザがあります。
技能ビザ
調理師や特別な技能を持った外国人人材は技能ビザになります。
教育ビザ
小中高などの学校の先生はこちらです(民間企業で働く先生は技術・人文知識・国際業務ビザ)。大学教授は教授ビザとなりますが、今回ご紹介している報酬規定とは異なる規定となります。
興行ビザ
興行ビザは仕事内容によって報酬規定が異なりますのでご注意ください。