はじめに

外国人留学生に内定を出した、もしくは雇用契約を締結したら、次は就労ビザへの変更が必要です。就労ビザとは日本で働くための在留資格の総称です。外国人留学生は留学ビザを持っていることが一般的ですので、働くことが可能な在留資格への変更手続きをしなくてはなりません。

※配偶者ビザや定住者ビザ、永住ビザなどは就労制限がありません。これらの在留資格をお持ちの外国人人材はビザの変更は必要ありません。

また、ビザの変更は入国管理局で「在留資格変更許可申請」をするのですが、この手続きは外国人本人が行うもので、会社が代理で手続きすることはできません。本人か法定代理人、申請取次の資格を持った行政書士や機関が手続き可能です。

しかし、本人がすべき手続きで会社側が手続きできないとの理由で、本人に任せればいい、というのはちょっと待ってください。

外国人留学生本人にビザの変更を任せるのはリスクがあるということを雇用側は知っておかなくてはなりません。

異国の地でビザ申請をするということ

もしあなたが異国の地でビザの申請をすることを想像してみてください。例えばアメリカへ留学してそのまま現地で働くことを想定してみましょう。

内定先企業からビザの変更手続きをするように指示されました。サポートは無し。指示以外の言葉は「会社側の必要書類は教えてくれれば用意する」「3か月以内にビザが取れなければ採用は白紙に戻す」。参ったな…

まず手続きについて調べることになります。英語が堪能であればそれほど難しくないかもしれませんが、不得手だったら?

申請書は英語です。英語でスラスラと申請書を仕上げることはできるでしょうか。

手続きには公的書類を添付しなければなりません。どこの役所で、どういう手続きをすれば入手できるかということから調べなくてはなりません。

そして、ビザの申請はアメリカに入国するときにしただけ。その際の必要書類は日本で集めたものと学校が準備してくれたもので苦労はしていない。

アメリカのビザについては噂・口コミ程度の知識しかないので不安でしょうがない。

いかがでしょうか。雇用側もビザ申請についてよく分かっていないと思いますが、それ以上に留学生は知りませんし、知るための手段も少なく、語学の壁もあります。ストレスも相当なものでしょう。

外国人にビザ変更を任せるリスク

先ほどは外国人留学生の側に立ってみましたが、雇用側に立ってみますね。

就労ビザへの変更手続きを外国人人材に任せるということは以下のようなリスクがあります。

  • 内定辞退
  • 入社が遅れる可能性
  • 不許可リスクが高まる
  • 理由書が必要
  • 決算書や事業計画書を内定者に渡さなければならない

内定辞退

内定を出した外国人留学生は他社でも内定をもらっているかもしれません。複数社を選択できるのであれば、より条件の良い会社に入社したいものです。

他社と条件を比べられたときに、就労ビザへの変更手続きのサポートが無ければ…必然的に優先順位は下がります。就労ビザの知識もあまりない中で自分でしなければならない不安、ビザという重要なことを丸投げする会社に対しての猜疑心。

外国人にとって良い印象は持てないですよね?

入社が遅れる可能性・不許可リスクが高まる

就労ビザへの変更手続きは「在留資格変更許可申請」で、申請してから結果が出るまで1~3か月程度かかります。入社は就労ビザへ変更完了後になりますので、内定を出してから入社までは少なくとも1か月以上必要ということです。

外国人留学生に就労ビザへの変更手続きを任せると、雇用側が考えているスケジュール通りにならない可能性が高いです。

外国人留学生は自分で調べながら手続きを進めるわけですので当然時間はかかります。もしくは学業・バイトで忙しいかもしれません。腰が重くなかなか前に進まないかもしれません。その結果、入国管理局への申請が遅くなってしまい、それに伴って入社が遅れてしまいます。

また、不慣れな手続き・よくわからない手続き・日本語がよく分からないといったことが原因で、申請書類そのものに不備があるかもしれません。不備があれば修正、再申請になります。申請書類が不十分であると追加書類の提出を求められます。

この場合、就労ビザへの変更許可が出るまでに時間がかかることはもちろんのこと、不許可という結果を招くリスクが高まります。

不備であればまだいいですが、申請内容が間違っていて就労ビザの許可要件を満たさなくなってしまったら不許可になります。

また、再申請は何度でも可能ですが、間違った内容について都度弁明しなければなりません。審査側が不法就労を怪しんでしまえば弁明程度ではリカバリーできない→何度申請しても就労ビザが取れなくなるかもしれません。

理由書が必要

入国管理局がホームページに提示する在留資格変更許可申請の必要書類とはされていませんが、就労ビザへの変更の許可率を上げるには必須の書類です。

就労ビザは「その就労ビザで認められた仕事をするのか」「学歴・実務経験と仕事内容のリンク」の在留資格該当性が非常に重要で、結果を大きく左右します。

申請書には職務内容と会社の事業内容についての項目がありますが、該当する職務・事業内容にチェックを入れるだけです。一目見て在留資格該当性を証明できればいいですが、項目は幅広く抽象的ですので困難です。

そこで、理由書を添えて申請するのですが、外国人留学生に書くことはできるでしょうか。

  • 仕事内容は会社から説明はあったが実際に働いていないのでよく分からない
  • 理由書は日本語で作成
  • 表現によっては不許可になる可能性あり

まだ仕事をしていないのに仕事内容を詳しく書くことは難しいです。そして、やはり日本語は難しいですからね。審査側に正しく情報を伝えられなければ理由書の意味を成しません。

決算書や事業計画書を内定者に渡さなければならない

上場企業など事業規模の大きい会社等を除いた中小企業(カテゴリー3、カテゴリー4)は、在留資格変更許可申請時に会社の決算書も提出しなければなりません。

また、会社の業績が悪ければ外国人の雇用安定性が欠けるということで不許可になりやすくなります。この不許可リスクに対応するために事業計画書を作成して提出することもあります。

これらの書類、内定者に渡しても大丈夫ですか?従業員に見せたくないと考えるのであれば、申請を代行できる行政書士など外部に申請代行を委託しなければなりません。

留学生には手厚いビザサポートを

内定者の就労ビザへの変更手続きをサポートすることは、雇用側の負担となります。労力的・時間的負担であったり、行政書士などに外注する場合はコストにもなります。

しかし、外国人の立場で考えてみれば、無理を強いていることが分かると思います。

そして、雇用側の立場で考えてみても、リスク回避という意味ではコストをかけるべきということもご理解いただけると思います。

また、就労ビザは「当然に許可される」訳ではなく、条件をクリアしていなければ不許可になるものです。リスク回避という意味では、ビザを専門にしている行政書士等に申請代行を依頼することも選択肢として検討してみてくださいね。