例えば、国際結婚をしたものの夫婦が不仲になった時、片方の親が一方の親の同意を得ずに外国に連れ去ってしまったら。

子どもを奪われた親としては、取り返したいですよね?

他にも、「外国で暮らしている子どもに会いたい!」「子どもが離れて暮らす一方の親に会いに行ったが、帰ってこない」といったこともあります。

 

また、子どもにとってはどうでしょうか?連れ去られた場合や無理に引き留められた場合、もう一方の親や友人と引き裂かれることになりますし、異なる文化、異なる言語に苦労することになります。それに、親には会いたいですし、仲良くお話ししたいものです。

 

じゃあどうするか。

以前は、異なる法律や文化の壁を乗り越えながら、子どもを探し出すところから親が自力で頑張らなければなりませんでした。また、子どもを取り返すための裁判を外国でしなければならず、大変高いハードルがあります。

つまり、多くの親は泣き寝入りするしかない状態でした。もしくは、解決できるかできないか分からない状態で試行錯誤しながら非常に苦労していました。他にも、子どもの連れ去りを防ぐために、一方の親と子どもに出国制限をかけられるという問題もありました。これは、連れ去り目的でないのにも関わらず、子どもを連れて帰国できないという事態があったということです。

 

日本はハーグ条約に加盟(2014年)

◆ハーグ条約

正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約

「国境を越えた子どもの不法な連れ去り(例:一方の親の同意なく子どもを元の居住国から出国させること)や留置(例:一方の親の同意を得て一時帰国後,約束の期限を過ぎても子どもを元の居住国に戻さないこと)をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして,子どもを元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力等について定めた条約」

(出典:外務省)

 

要するに、国境を越えた子どもの連れ去りや置き去りについて、また、親子交流の機会を確保するための国家間同士が協力する条約です。

この条約は1980年に国際的な子の連れ去りを防ぐことを目的として作られた条約で、オランダのハーグで作成されたことから、通称ハーグ条約と呼ばれています。2017年3月現在、日本を含めた96か国が締結していますが、日本が締結したのは2014年と最近なんです。

ハーグ条約 2018のサムネイル締結国一覧(出典:外務省HP)

 

どんな仕組み

①子を元の居住国へ返還することが原則

ハーグ条約手結国間であれば、原則として子を元の居住国に返還する義務があります。元の居住国で生活することが子どもにとっての利益とされているんです。

また、連れ去りとは「片方の親による監護権の侵害」ということができるのですが、この監護権の侵害を不法な状態と考え、司法の場で判断を下します。その際には子どもの生活環境の関連情報や、もちろん両親双方の主張を十分に考慮することになっています。

 

②親子の面会交流の機会を確保

親子が会えるように状況の改善をします。また、親子の面会交流ができるようになることは、不法な連れ去りや留置(出国させない)の防止にもなりますし、子どもにとってうれしいことです。

そのため、締結国が親子をしっかりと支援することを定めています。

 

手続きの流れ In Japan

ハーグ条約の管轄は外務省です。専用窓口が設けられています。

外務省ハーグ条約室

電話:03-5501-8466

対応時間:平日9時から17時(12時半~13時半を除く)

Mail:hagueconventionjapan@mofa.go.jp

URL:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html

 

①まずは相談

まずは上記のハーグ条約室(03-5501-8466)にお電話で相談しましょう(メールでも可)。状況やご要望を勘案し、ハーグ条約に基づく援助が可能かどうかを判断してくれます。

その際、以下の事を聞かれますのでまとめておきましょう。

  • お子さんの年齢(16歳未満かどうか)
  • お子さんが今いる国
  • お子さんが連れ去られた時期など
  • 親権(監護権)の有無
  • ご希望(お子さんの返還/面談) etc…

 

②ご自身で申請します。

でもご安心を。ハーグ条約室の方が申請を手伝ってくれるそうです。しかも、申請前から申請後までひとりひとりに担当者が付きますので、心理的不安が軽減されますね。申請書は同ホームページにありますのでご確認を。

また、申請するときは申請書以外にも添付書類が必要となります。用意できましたら、ハーグ条約室に郵送してください。

宛先:〒100-8919 東京都千代田区霞が関2-2-1 外務省領事局ハーグ条約室

※連絡先・住所などはホームページなどで最新情報を必ずご確認ください。

 

③申請書の審査

通常であれば1~2週間かかります。

 

④日本側:援助決定/却下

援助決定が決まると、日本としてはハーグ条約のもと、子どもの返還/面会交流実現に向けて支援することになります。

ただし、ご希望が叶うかは別問題です。

 

⑤外国の中央当局への援助申請の送付

ハーグ条約は該当国双方への申請が必要なんです。そのため、日本への申請ともう一カ国への申請が必要なんですね。

④で日本側はOKとなっていますので、ここでは外国へ申請します。また、申請書類は外国語になります。でもご安心ください。ハーグ条約室が翻訳費用を援助してくれます(上限はありますが)。

 

⑥外国側:援助決定/却下

援助決定が決まると、以下のような外国とのやり取りを申請者と外国の中央当局との間の連絡のお手伝いをしてくれます。

  • 裁判
  • 調停/ADR(裁判外紛争解決手続き)
  • 当事者間の話し合いなど

 

日本でのハーグ条約の実施状況

平成26年度の法務省・外務省からの報告から抜粋しています。

 

申請数は113事案、対象となる子どもの数は158名です。

申請の種類は大きく4つです。

 

先ほど、日本と相手国の合計2国に申請すると書いた通り、次のように大別できます。

  • 外国返還援助(26事案):外国側からの申請。日本から外国に子供を戻して!という申請です。
  • 外国面会交流援助(14事案):外国からの申請。外国で子どもに会わせて!という申請です。
  • 日本国返還申請援助(18事案):日本からの申請。子どもを日本に返して!という申請です。

日本国面会交流援助(55事案):日本からの申請。日本で子どもに会わせて!という申請です。この報告を見ると、日本人だけでなく外国人も多くの方が同じような状況に置かれていることが分かりますね。また、交流よりも返還の方が希望としては強いはずですが、日本側は交流援助の申請の方が多いです。遠慮なのか、お国柄が出ているのかもしれません。

 

そして申請結果について。上記の113事案に対する結果ではなく、報告書を取りまとめる期間中に実現した結果とされていることにご注意を。結果は外国返還援助分が3事案、日本国返還援助分が4事案、合計7事案が返還実現できています。面会交流援助については、「多くの事案について両当事者の連絡の仲介が実現している」とされていました。

ん?

残念ながらほとんど非公開です。なぜでしょう。。。?

また、ホームページのQandAにも実施状況について書かれてありましたのでご紹介します。

「平成29年3月1日時点で、日本から外国への子の返還実現例が19件、外国から日本への子の返還実現例が17件」

「子や親が国境を越えて渡航する形で面会が実現した例,ビデオ通話による面会が実現した例等があります」

まだ締結して間もなく、手続きに時間がかかる(外国とのやり取り、裁判など)ので、件数が少ないのは仕方がないのかもしれません。