日本の入管法上、日本に住む外国人の方が海外に住んでいる両親を呼んで一緒に暮らすのはとても難しいです。
なぜなら、「日本在住の外国人の親」という条件のビザは限られたケースでしか認められないからです。配偶者や子供であれば、配偶者ビザ(日本人の配偶者等、永住者の配偶者等)・定住者ビザ・家族滞在ビザがありますよね?一方で親に関するビザは法定されているものだと高度専門職ビザ所持者などの親くらいにしかなく、人道的理由で例外的に認められるという扱いです。
「親と暮らすのは無理です」と言わんばかりの表現になってしまいましたが、いくつか方法があります。親が日本に住む子供との関係性や、金銭、医療など様々な選択肢がありますので、日本に住む子供と海外に住む親の状況を照らし合わせて検討して見ましょう。
親の日本への移住は難しい
冒頭にお伝えした通り、配偶者や子供のための移住用のビザはありますが、親については日本に子供が住んでいるからという理由だけでは移住できません。移住するためには「日本にいる子供にお世話してもらわなければならない」状態でなければなりません。
この状態以外の場合は、「一時的に日本に身を寄せる」ビザしか取れません。数ヶ月、または数年で日本から出なければならないビザしか取れないということです。
また、子供と関係のないビザであれば移住は可能です。つまり、就労ビザを取るということ。日本でサラリーマン(例:技術・人文知識・国際業務ビザ)になったり、起業(経営・管理ビザ)ですね。こうしたビザが取れれば配偶者は家族滞在ビザが取れますので夫婦揃っての移住も可能です。
「日本在住外国人の親」が該当するビザの紹介
それではケースごとに見ていきましょう。
日本に移住する(連れ親ビザ)
日本に移住するためには、連れ親ビザ(老親扶養ビザ)を取ります。年老いた両親のためのビザです。最後の余生を日本で一緒に暮らすためのビザとも言えますね。特定活動ビザ(告知外活動)を取得することになります。
また、残念なことに元気な親を日本に連れてくることはできません。あくまで例外的な扱いで、人道的理由が必要となります。
詳しくは連れ親ビザの詳細ページをご確認ください。
連れ親ビザの条件
連れ親ビザの条件はとてもハードルの高いものになっています。
あくまでも人道的に理由がある場合にしか許可されません。
- 高齢であること(70歳前後以上)
- 面倒を見る親族が本国にいない
- 子供が親を扶養すること。扶養能力があること。
- 誰かが面倒を見なければならない状態
許可/不許可は総合的に判断されるものの、基本的には上記の条件を満たさなければなりません。そのため、1人で生活できる60代の親や両親の一方が健在では無理です。本国に他の子供がいる場合も難しいです。そして、日本在住の子供に経済力がなければ親を日本に連れてくることはできません。
連れ親ビザ取得の手順
特定活動ビザの告知外活動になることから、在留資格認定証明書交付申請という一般的な呼び寄せの手順はできません。
まず、短期滞在ビザで来日し、在留資格変更許可申請で特定活動ビザへ変更する手続きをとります。短期滞在ビザの在留期間内に許可が出ない、または不許可になれば、せっかく来日しても帰国を余儀なくされ、一連の手続きが徒労に終わる可能性もあります。そのため、親を日本に移住させるにはとても慎重に進めていく必要があります。
短期的に日本に暮らす(短期滞在ビザ)
短期滞在ビザを取れば、1回最大で90日、年間180日間ですが日本で一緒に暮らすことができます。査証免除国であればノービザですね。日本を観光させてあげたい、日本の暮らしを体験させてあげたい場合などは短期滞在ビザで来日してもらうことになります。
また、短期滞在ビザを数次ビザとして取得すれば来日するたびに短期滞在ビザを取得する必要はありません。
詳しくは短期滞在ビザの詳細ページをご確認ください。
短期滞在ビザのポイント
- 在留期間は15日、30日、90日のいずれか
- 在留期間の更新は原則不可
- 数次ビザとして取れば年間180日程度を限度に何度も来日可能
- 査証免除国はビザ不要(ノービザ)
短期的に日本で暮らす(お金持ち限定:特定活動ビザ)
親がお金持ちの場合、特定活動ビザ(特定活動告示40号、41号)を取得して最大1年間の日本滞在が可能です。短期滞在ビザだと1回最長90日ですが、富裕層に対してはこのビザを取ることで優遇されています。子供が日本に住んでいる云々は関係のないビザですが、半年〜1年の日本滞在が叶いますのでご両親に案内してみてはいかがでしょうか。
詳しくはお金持ち限定:特定活動ビザの詳細ページをご確認ください。
特定活動ビザ(特定活動告示40号、41号)のポイント
- 目的:観光・保養等
- 特定活動告示40号はお金持ち本人
- 特定活動告示41号はお金持ちの配偶者
- 国籍が限られる(ヨーロッパ、北米、台湾、香港など)
- 1人で来日する場合は夫婦で日本円換算で3,000万円以上の預貯金が必要
- 夫婦で来日する場合は夫婦で日本円換算で6,000万円以上の預貯金が必要
- 民間の医療保険(死亡・傷害・疾病)に加入していること
- 医療費は全額負担(健康保険に加入できない)
- 在留期間:6ヶ月(更新1回の最長一年)
治療目的で来日(医療滞在ビザ)
日本の医療を受けたい場合で日本滞在期間が90日を超える場合は医療滞在ビザ(特定活動告示25号)を取ることになります。90日以下の場合は医療目的の短期滞在ビザです。
90日を超える在留期間になるため「日本の健康保険が使えるようになるのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、残念ながら無理です。医療滞在ビザ所持者は国民健康保険に加入できませんので、治療費は全額負担となります。あくまでも日本の高度医療を受けるためのビザです。
詳しくは医療滞在ビザの詳細ページをご確認ください。
医療滞在ビザのポイント
- 入院が必要(在留期間は6ヶ月または1年)
- 入院しない場合は医療目的の短期滞在ビザ(在留期間90日以下)
- あらかじめ日本の医療機関の手配が必要→医療機関から外国人患者に係る受入れ証明書をもらいます
- 付添人は必要と認められれば医療滞在同伴者ビザ(特定活動ビザ26号)が与えられる
- 付添人は配偶者や親族、他人でも可能
- 付添人は無報酬でなければならない
- 医療費は全額負担(健康保険に加入できない)
- 医療滞在ビザの場合は在留資格認定証明書交付申請で呼び寄せ
- 医療目的の短期滞在ビザの場合は日本大使館・領事館でビザの申請
高度専門職ビザ所持者の親(特定活動ビザ)
高度専門職ビザ所持者の両親や義父母は特定活動ビザ(特定活動告示34号)を取得して日本に連れてこれる可能性があります。
このビザは孫のためのビザで、日本に住むことができるのは妊娠中から孫が7歳になるまでの期間限定です。
詳しくは高度専門職ビザの連れ親の詳細ページをご確認ください。
特定活動ビザ(特定活動告示34号)のポイント
- 対象:高度専門職ビザ所持者またはその配偶者の親
- 高度専門職ビザの外国人(=子供)と同居必要
- 子供の世帯年収(高度専門職ビザ所持者と配偶者)が800万以上必要
- 7歳未満の孫を養育または妊娠中の介助、家事その他の必要な支援を行う親として行う日常的な活動
- 孫は子供の実子だけでなく、養子や連れ子も含む
- 在留期間は6ヶ月(7歳に到達する直前)、または1年
- 孫が7歳を超えた後の更新はできない
- 一方の親しか許可されない
- 資格外活動は原則許可されない
- 通常よりも審査期間が短い→在留資格認定証明書交付申請:10日以内、在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請:5日以内
特別活動36号・37号(特定研究等活動、特定情報処理活動)の親
特定活動ビザ(特定活動告示39号)が該当します。日本に移住できるビザですが、非常に限られた方しか対象になりません。
理由は2つあるのですが、特定活動36号・37号を取る方はごく僅かであるということ、子供が来日する同時期に扶養している親も日本に転居しなければならないという条件があるため、現在日本在住の外国人の子供の親は対象外だからです。
- 対象:特別活動36・37(特定研究等活動・特定情報処理活動)の親
- 扶養者(子供)と同居し、かつ、その扶養を受けること
- 外国において扶養者(子供)と同居し、かつ、その扶養を受けていたこと
- 扶養者(子供)と共に日本に転居すること
- 在留期間は5年、3年、1年、6ヶ月、3ヶ月
連れ親ビザについてコラム
「親」に関するビザをいろいろと紹介しましたが、多くの方は「連れ親ビザ」を検討することになると思います。親の介護を日本在住の子供が引き受けるという構図ですね。
親の介護問題は日本でも大きな課題になっており、私の周りでも「介護のため同居し始めた」「親の面倒を見るため仕事を辞める」という話もよく耳にします。日本人であれば金銭、労力の問題になりますが、外国人の方はこれらに加えてビザ(在留資格)というハードルも出てきます。基本的には元気な両親を日本に連れてくることは無理で、「日本に連れてくる以外に選択肢が無い」状態にまで待たなければなりません。
なぜこれほど高いハードルが親に対して課せられるのかというと、国の負担が重くなる、つまり、お金の問題です。
世界中どこの国も外国人の受入れについてはルールを設けています。その理由は自国の利益のためです。自国に貢献してくれるような優秀な外国人の方は多く受入れしたいですし、反対に自国民の雇用を奪われたり、治安の悪化、財政の圧迫になるケースは受入れを制限します。
残念ながら「親」という身分だけでは日本の財政圧迫の原因になってしまうんです。日本国の福利厚生や年金制度は若者の労働力が支えているのですが、その枠内にこれまで日本に対して貢献していない方が入るということは日本にとっては負担でしかないんです。ましてや老人ともなると医療費の負担になる可能性も高く、労働力としても貢献が難しいです(貢献できるなら就労ビザ)。そのため、人道的理由が無ければ「親」という身分では日本に住むことができないんです。
「かわいそう」「日本はひどい」「外国人を差別するな」という意見もあると思います。でも、国の構造上、第一優先するのはやはり自国民です。残念ながら日本は誰に対しても優しい国ではありません。ただただ合理的に順位付けをしているだけなのです。
長くなってしまいましたので、そろそろ話をまとめますね。
連れ親ビザはこの合理的な順位付けの中で日本滞在を許可できるギリギリのラインにある在留資格です。そのため、プロの専門家でも連れ親ビザの獲得は難しいものです。ましてや一般の方なら尚更です。また、連れ親ビザは取得できるかわからない状態で来日しなければならず、不許可となってしまえば金銭を失い労力も無駄、親の体に負担をかけてしまうばかりとなります。
こうした現実がありますので、連れ親ビザをお考えの場合は少しでも可能性を高くするために専門家に依頼されることをお勧めします。